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水戸地方裁判所 昭和27年(行)32号 判決

原告 富田正

被告 石塚町農業委員会

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「被告の前身である石塚町農地委員会が、別紙目録記載の土地につき、昭和二十六年六月十三日に樹立した売渡計画処分の無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との旨の判決を求め、その請求原因として

一、石塚町農地委員会(以下町農委と称する)は昭和二十六年六月十三日従来訴外園部清太郎所有であつた別紙目録記載の土地について買収期日を同年十一月一日と定めて買収計画を樹立すると同時に右土地につき売渡の相手方を訴外園部正、売渡期日を同年十一月一日と定めて売渡計画を樹立し、いずれも縦覧期日を同年六月二十日より同月三十日までとして公告した。

二、しかしながら、右売渡計画は次の点において重大且つ明白なる瑕疵を帯びた無効の行政処分である。即ち

(一)  別紙目録記載の土地のうち字新宿坂下三〇七八番の二、田一畝七歩を除くその余の土地は、地主清太郎に於て従来園部正に小作させてきたところ、正は昭和十九年中右小作地の返還の申出をしたが、清太郎は今一年だけ耕作してくれと依頼し耕作せしめておいた。そして昭和二十年十一月初頃に原告に対し耕作方を依頼して来たので、原告は訴外富田早苗と共同でその耕作を引き受け、爾来本件買収売渡計画樹立当時まで耕作を継続してきたのである。地主清太郎は買収を免れる目的で自作地の届出をしておいたが、実質上は請負耕作であり、いわゆる仮装自作地に外ならない。前記買収計画は右の事実にもとずき町農委が所謂仮装自作地なりとして買収計画を樹てたものである。当時の議事録には自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する)第三条第一項により買収する旨記載あり、清太郎が不在地主であるため、同条項によつた如き観もないではないが、右は同法第三条第五項第二号の誤記と認むべく、事実上は同条項を適用したものである。しからばその買収地の売渡の相手方は、自創法施行令第十七条第一項第二号により、買収の時期において当該農地につき、請負その他の契約に基き、耕作の業務を営む者、即ち原告と富田早苗のうち買受申請をした原告を売渡の相手方と定むべきである。

然るに町農委は仮装自作地たることを認めて買収計画を樹てながら、右施行令の規定に反し、園部正を売渡の相手方と定めて売渡計画を樹立したのは明らかに違法であり当然無効というべきである。

(二)  前記の如く本件売渡計画は買収計画と同時に樹立されたが、売渡計画は買収処分が完了した上、初めて之を樹立し得べきものであり、買収、売渡計画を同時に樹立するが如きは明らかに違法である。

(三)  前記三〇七八番の二の田はさきに茨城鉄道株式会社が鉄道用地として買い受け、本件買収売渡計画樹立当時には現況鉄道線路となつていたものである。しかるに町農委はこれを他の本件農地と一括して清太郎の所有として買収計画を樹て、更にそれに基き園部正に売渡す計画をたてたのは明らかに違法である。

よつて本件売渡計画の無効確認を求める。

と述べ、被告の主張に対し

昭和二十年十一月二十三日現在に園部正が前記(一)記載の農地につき耕作権を有していたことは争う。同人は前記昭和十九年中の話合にもとずき右基準日以前清太郎に返地したものであり、従つて同人を売渡の相手方とする売渡計画は違法であると述べた(立証省略)。

被告訴訟代理人は請求棄却の判決を求め、答弁として、

(イ)  原告主張の一の事実は認める。

(ロ)  原告が本件売渡計画の違法原因として主張する事実のうち

(一)に付ては、三〇七八番の二の田以外の本件農地は園部正が地主清太郎から賃借小作してきたものであること、本件買収売渡計画前に正は之を地主に返還し、計画当時清太郎の自作地として届出でられてはいるが、原告と富田早苗とが地主清太郎との契約により請負耕作をしていたことは認めるがその他の点は争う。園部正が右土地を地主清太郎に返地したのは昭和二十一年三月のことであり遡及買収の基準日たる昭和二十年十一月二十三日現在においては園部正が耕作していたのであり、右土地は不在地主の所有する小作地に該当していたものである。

町農委は右の事実に基き自創法第六条の五の規定に従い、右基準日には自創法第三条第一項第一号該当地であつたものと認め、職権による遡及買収として計画を樹立したもので、所謂仮装自作地たることに基き同法第三条第五項第二号を適用して買収計画をたてたのではない。従つて売渡の相手方を園部正と定めたのは当然であり何ら違法ではない。

(二)に付ては売渡計画を買収計画と同時に樹立したのは何ら違法でない。要は買収処分後に売渡処分がなされればよいのであつて、計画樹立については両者を同時にすることはかえつて手続を迅速に進めることとなるのである。

(三)に付ては三〇七八番の二の田が買収計画当時現況鉄道線路であつたことは争わない。しかし右土地については原告は買受の資格あることを主張しているものではなく、右土地の買収売渡計画が適法か違法かは原告の権利ないし利益に何らの関係がないから、原告は右土地については、その売渡計画の無効確認を求める何らの利益がないと述べた(立証省略)。

三、理  由

原告主張の一の事実については当事者間に争いがない。そこで町農委の樹立した売渡計画につき原告が無効の行政処分であると主張する諸点について順次判断する。

二の(一)について

三〇七八番の二の田を除く本件土地は園部正が地主清太郎から賃借小作してきたものであること、買収計画前正は之を地主に返還し、計画当時清太郎の自作地として届出でられてはいるが、原告と富田早苗とが地主清太郎との契約により請負耕作をしていたこと、地主清太郎はいわゆる在村地主でないことは当事者間に争いがない。そこで本件買収計画が原告のいうようにいわゆる仮装自作地なりとして樹立せられたものであるか職権により遡及買収として樹立せられたものであるかについて考えてみるに、成立に争のない乙第一第三号証、同第四号証(甲第八号証)証人片岡徳男、同海野健蔵、同大沢浩之助の証言を合せ考えると、前記農地の所有者園部清太郎は前記のとおり農地の所在地たる石塚町に居住していないのであるが、昭和二十一年度以降同人の自作地として町農委に申告されていたので、町農委でもこれにつき買収計画を立てずに経過してきたところ、さきに昭和二十二年五月十日附で以前の小作人たる園部正より「地主の土地取り上げは不在地主たることによる買収を免れんがための手段で不当と思われるから調査されたい」との趣旨の陳情書が提出され、さらに昭和二十六年五月二十九日附で同趣旨の陳情書(該農地につき買受申請をする旨をも併せて記載し、且つ参考事項として昭和二十年十一月二十三日現在においては自分が小作人で買受資格を有するものであり、現在地主清太郎が富田正と富田角右エ門に耕作させながら地主名義で供出しているのは仮装自作であることを考慮の上処置せられたい旨をも附記したもの)が提出されたので、ここに町農委も該土地の買収計画を附議することとなり、昭和二十六年六月十三日関係人として委員会に呼び出しておいた園部正、富田角右エ門の妻某(早苗の親)富田正(原告)につき事情を聴取し、園部正が昭和二十年十一月二十三日現在における前記農地の小作人であり、地主清太郎は不在地主であるから、右基準日の事実にもとずき買収計画を樹立し、なお基準日現在の小作人たる園部正を売渡の相手方とする売渡計画をも樹立する旨の議決をしたものであること、前記農地がいわゆる仮装自作地に該当することは園部正の陳情書にも記載されてあり、従つてまた委員会においてもその点が論議され、地主清太郎の行為を非難する発言もあつたけれども、それは買収計画の根拠とされたのではなく、買収計画の根拠は自創法第六条の五により、昭和二十年十一月二十三日現在の事実にもとずけば同法第三条第一項第一号所定の土地(不在地主の所有する小作地)に該当するものとして買収計画に組み入れるとするにあつたこと、前記乙第四号証(甲第八号証)に「偽装自作地であるから三条一項により買収」なる文言の存するも、ひつきよう右の趣旨の表現が不正確になされたものに外ならないことが認められる。そして証人園部正、同栗橋義章、同金沢謹三の各証言並びに前記乙第一、第三号証を合せ考えると、園部正は前記農地の所有者園部清太郎の弟であるが、昭和十三年頃以来右農地を清太郎より賃借耕作してきたこと、昭和二十年十一月二十三日当時には稲の刈取も全部はすんでいなかつたので栗橋義章、金沢謹三にてつだつてもらい、同月二十六日頃にようやくその刈取をすませたこと、昭和二十一年三月二十五日頃清太郎は正に対し自分方で耕作するから返してくれと要求し、正は小さな子供が多いので、耕地をへらすことは生活にもひびくので、返地は不本意ではあつたけれども、結局兄弟のこととて泣き寝入りとなり、かくして原告と富田早苗が清太郎との契約により昭和二十一年度以来前記農地を耕作するにいたつたことが認められる。

証人江幡信雄、同檜山勝吉の証言中右認定に反する部分は措信しがたい。してみれば、町農委が昭和二十年十一月二十三日現在の事実によれば前記農地は不在地主たる園部清太郎の所有する小作地に該当し、その小作人は園部正であると認め、職権による遡及買収計画を樹てたのは正当であり、それが同時に仮装自作地として自創法第三条第五項第二号によつても買収計画を樹立し得べき場合にも相当しているからといつて、前記遡及買収計画を違法とするには当らないし、従つてまた同委員会が売渡計画を樹立するについて、園部正を売渡の相手方と定めたのも自創法施行令第十七条第一項第一号の規定に合するもので、この点につき何らの違法もないのである。

二の(二)について

本件農地に対する買収計画と売渡計画とが同じ日の昭和二十六年六月十三日に樹立せられたことは当事者間に争いがないけれども、これがために右売渡計画の樹立を違法な行政処分というわけにいかないことは被告の主張するとおりである。即ち売渡処分という究極的行政処分をなすにはそれまでに買収手続が完了していることを要するが、その先行的行為である売渡計画の段階では必ずしもこれを必須の要件とはしないのであつて、既に買収計画によつて買収予定地とされたものであれば、これを売渡処分の対象たるべきものとしてこれにつき売渡計画を樹ててもそれがために利害関係人の法律上の地位を不当に不安定ならしめるおそれは全然なく、かえて売渡の手続を迅速に進めることにより、自創法第一条所定の目的を達成する効果があるともいえるわけである。従つて原告の前記主張は採用しがたい。

二の(三)について

三〇七八番の二の田が買収計画当時には現況鉄道線路となつていたことは当事者間に争いのないところであるが、原告は右土地については買受の有資格者であると主張するのではないから、右土地の買収及び売渡の各計画が適法か違法かは原告の権利ないし利益に何らの関係がないのであつて、原告において右売渡計画の無効たることの確認を求める法律上の利益を有しないものといわねばならない。そして、右一筆の田の買収並びに売渡の計画が違法であつても、それがために爾余の土地についての買収売渡計画に何らの影響をも及ぼすものでないことは明らかであるから、原告の前記(三)の主張も採用のかぎりでない。

以上のような次第で本件売渡計画が重大且つ明白なる瑕疵を帯びた無効の行政処分であることを理由とする原告の請求は失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 多田貞治 服部一雄 高井清次)

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